今回は”人新世の「資本論」”の内容の解説と感想です。
1.主要メッセージ本書の主要メッセージは一言でいえば
「環境危機の今の時代、資本主義をやめ、脱成長コミュニズムにシステム転換する必要がある」
というもの。
2.環境危機とは?我々が低コストで豊かな生活をするということは、他の誰かが犠牲になっているということ。
つまり、先進諸国での安価で便利な生活は、
発展途上国の労働者に対し、劣悪な環境下で低賃金の労働を強い、
地球環境に対し、限りある資源を際限なく収奪しそれに伴う環境負荷を押し付けている。
経済用語ではこれを「外部化」という。
我々は、移動に便利な車に乗るが、車が出す排気ガスや二酸化炭素によって、大気汚染や地球温暖化が進んでも、
それに対するコストを支払う必要ないのである。
我々が、コーヒーや洋服を安く購入することができるが、それは発展途上国などで貧しい生活をする人たちに低賃金で生産を担わせているからである。
これが「我々が低コストで豊かな生活をするということは、他の誰かが犠牲になっているということ。」の意味である。
そして今、気候変動問題は取り返しのつかないところまで来ているのである。
3.なぜ資本主義をやめる必要がある?「資本主義による技術革新が気候変動問題を解決する」
という楽観論。
但しデータを見てみると、
世界の二酸化炭素排出量は未だに増え続け、
世界のエネルギー消費量も増え続け、
世界の鉱物生産量も増え続けている。
本格的な資本主義が始まってから約250年間、また気候変動が問題化してから約30年間、
これらはずっと増え続けてきたのである。
このデータを直視すると、「技術革新が気候変動問題を解決する」とは言えないのではないだろうか?
確かに資本主義は、人類の歴史から見るとものすごく短期間に様々な技術革新を生み出してきた。
但し、このような技術革新による生産活動の効率化は逆に環境負荷を増やしてきたのである。
これをうまく説明するのが「ジェヴォンズのパラドックス」である。
これは、19世紀の経済学者ウィリアムスタンレー・ジェヴォンズが「石炭問題」で提起した逆説である。
投じイギリスでは、技術進歩によって石炭をより効率的に利用できるようになっていた。
だが、それで石炭の使用量が減ることはなく、むしろ石炭の低廉化によって、それまで以上に様々な部門で石炭が使われるようになり消費量が増加していったのである。
このように、効率化すれば環境負荷は減るという一般的な想定とは異なり、技術進歩が逆に環境負荷を増やしてしまったのである。
これが現代においても同じことが起きているのである。
テレビは省エネ化しているが、人々がより大型のテレビを購入するのようになた製で、電力消費量がむしろ増えている。
自動車の燃費向上をSUV等の大型車の普及が無意味にした。
新技術の開発で効率性が向上したとしても、商品がその分廉価になったせいで、消費量の増加につながることが頻繁に起こるのである。
技術革新でも環境負荷は減らず、むしろ増えるのだとしたらどうすればいいのか?
それは、資本主義の根幹にある「際限なき利益追求」=「際限なき消費拡大」をやめる必要があるということである。
そこで本書が提案するキーテーマが「脱成長」である。
4.脱成長コミュニズムとは?ここまで見てきたように、環境危機を乗り越えるためには、「脱成長」が必要である。
そして本書では、資本主義的な生産活動を変革し「脱成長コミュニズム」に切り替える必要があると提案する。
まず資本主義的な生産活動では、
「資本家」と「労働者」が分離されている。
資本家は最初に資本を出し、生産設備などを購入し、
労働者を雇って、生産活動を行う。
つまり生産設備を所有しているのは資本家ということになる。
そしてこの資本家の利益追求欲求をエンジンとして資本主義経済は発展してきたのである。
一方本書で提案する「脱成長コミュニズム」による生産活動では、
資本家は存在せず、生産設備を労働者が共同で所有し、共同で管理していくというもの。
わかりやすくいうと協同組合のようなものだ。
これにより、
必要なものを必要な分だけ生産する体制に切り替え、
利益を追求せず労働時間を削減することで生活の質を高め、
生産効率重視の過度な分業制をやめ、労働によるやりがいを高め、
みんなで決めることでやりがいを高めるとともに、意思決定のスピードを落とす
ことで生産活動の側面から「脱成長」を進めるというもの。@
これは、資本主義の進展に伴い、
失われていた労働者のやりがいを高めること、
利益追求を放棄することで労働時間を削減すること、
労働者の労働環境の質を高めるのと同時に
今まで手にしていた「効率的」な生産プロセスを手放すことも意味している。
これによって、経済を減速させ、脱成長を達成し、環境負荷を減らしていくというのが本書の提案だ。
STOP
<コメント>・「脱成長」というのはよく言われますが、その多くはいわゆるミニマリスト的に不要な消費をやめる等、”消費サイド”からのアプローチが多かったのに対し、本書では”生産サイド”の変革を打ち出している点が新しい。
・一方で、生産サイドで、あえて非効率な体制を受け入れることになるのだが、人間というのは基本的には合理的な生き物で、「楽をしたい」「効率化したい」という根源的な欲求がある中、ほんとに意図的に「非合理」「非効率」を受け入れることができるのかは疑問。
・また、脱成長コミュニズムにおいて、生産設備を労働者が保有するとあるが、ではその生産設備を購入するための資金は誰が出すのか?労働者が共同出資するにしてもお金のない人はどうする?出資割合に応じて給料も変わる?変わらない?等、細かい部分については言及がなく、具体性が少し中途半端だなと思った。
・いずれにしても、脱成長というのは必要なので、消費サイド、生産サイド、両方からのアプローチが必要だなと思う次第。
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