
2013年3月に黒田氏が日銀総裁就任後、日銀は日本経済の至上命題であるデフレ脱却を目的としてインフレ率2%を目標に掲げ、現在に至るまで異次元の金融緩和を行ってきました。
日銀は、以下の量的質的金融緩和を行うことで世の中のお金の量を増やし、それによって消費を刺激し、2%のインフレ率目標を達成しようとしました。
・大量の国債を買い取ることで金融機関にマネーを注入
・金利引き下げにより、金融機関に注入したマネーを民間企業や家計に行きわたらせる
ところが、2%インフレ目標は一向に達成されていないのが現状です。

出典:世界経済のネタ帳
ここでは、なぜ異次元の金融緩和をやっても、インフレ目標を達成できないのかを見ていきましょう。
まずは、マネタリーベースとマネーストック(M3)を見ていきます。
マネタリーベースとマネーストックの定義は日銀HPによると以下。
QTE
マネタリーベース:「日本銀行が供給する通貨」のこと。具体的には「マネタリーベース=日本銀行券発行高+貨幣流通高+日銀当座預金」
マネーストック:「金融部門から経済全体に供給されている通貨の総量」のこと。具体的には、一般法人、個人、地方公共団体などの通貨保有主体(金融機関・中央政府を除いた経済主体)が保有する通貨(現金通貨や預金通貨など)の残高を集計しています。
UNQTE
ここで典型的な疑問となるのが、「日本銀行が供給する通貨の合計=経済に供給されている通貨の合計」ではないの?というものです。
例えば
AさんがX銀行に100万円の預金をしました。
仮に預金準備率が1%として、X銀行は1%に当たる1万円を日銀に預け入れ、残りの99万円をBさん貸付けました。
その99万円は、Bさんが保有するA銀行口座に振り込まれます。
この時、X銀行はBさんに99万円をかしつけている一方で、その99万円は未だ手元にある状況です。
X銀行は更に、99万円の1%に当たる0.99万円を日銀に預け、残りの98.01万円をCさんに貸し付けました。
その98.01万円は、Cさんが保有するA銀行口座に振り込まれます。
この時点で区切ってみると、Aさんは100万円、Bさんは99万円、Cさんは98.01万円の預金残高があり、元々100万円だったものが、貸付を繰り返すことで合計297.01万円に増えていることになります。このような現象を信用創造といいます。
仮に、A銀行がこれを無限に繰り返していくと、証明は割愛するも最終的には100万円÷1%=1億円のお金が世の中に出回ることになります。
マネタリーベースとは、ここでいう最初の100万円のことで、マネーストックはここでいう1億円のことで、世の中に出回っているマネーの総量を表します。
ちなみに「マネーストック÷マネタリーベース=信用乗数」とあわされ、信用乗数が大きいほど、貸し出しによる信用創造が活発に行われてマネーの総量(マネーストック)が増えていることになります。
では実際にマネタリーベース、マネーストック、信用乗数の推移を見ていきましょう。

出典:日銀のデータを基に作成
まず、マネタリーベースを見ると黒田総裁が就任し、異次元の金融緩和が始まった2013年から目に見えて上昇しています。
次にマネーストックはどうでしょうか?増えてはいるのですが、マネタリーベース程の急激な伸びは見られません。
信用乗数(マネーストック÷マネタリーベース)を見ると、こちらは2013年頃から急激に下がって低迷しています。
ここからわかることは、日銀はお金を大量に注入しているものの、銀行の貸出が思うように行われていないために、マネーストックがあまり伸びていないのです。異次元緩和で2013年~2019年で日銀は380兆円のマネーを注入したにも関わらず、実際のマネーの総量は240兆円しか伸びていないというお粗末な結果になっています。
これは、どんなに金利が低くても、デフレの状況下、借入を行って新規の投資をしていこうという企業が少ないことが原因として挙げられます。

出典:財務省
民間企業が全く借入を増やさない中、やっとこさマネーストックが増えているのは、民間に代わって政府が大量に借入残高(国債残高)を増やしているからといえます。

出典:財務省
2013年~2019年でマネーストックが240兆円増加した中、同期間に国債残高が190兆円ふえているので、マネーストック増加の大半を政府の借入が担ったことになります。
マネーストックの増加が鈍いとはいえ、異次元緩和前の2012年末から2019年末にかけて、マネーストックは20%程上昇しているので、GDPもある程度伸びているのではないか、ということでマネーストックと名目GDPの関係を見てみましょう。
ちなみにGDPの解説は以下ご参照。
GDPとは?名目GDPはいわば、経済活動でお金がどの程度回転したかを表すものなので、以下のような式が成り立ちます。
名目GDP=マネーストック×流通速度
流通速度とは、1年間でお金が平均何回転したかを表すものです。

出典:日銀のデータを基に作成
これを見ると、マネーストックの伸びに対してGDPの伸びが非常に鈍いことがわかります。
実際に流通速度も、ここ10年以上下落傾向にあります。
つまり、マネーの総量は増えているのに、GDP=消費の総量、はたいして増えていないということです。
2019年末では流通速度が0.4まで下落していますので、1年間経済活動に全く使われず眠ったままのお金が6割も存在していることがわかります。
では、この眠っているお金はどこにあるのでしょうか?
先ほどの説明で、近年のマネーストックの増加の担い手が政府の国債発行にあることを説明しました。
政府は調達した資金を、社会保障費として個人へ支払い、公共事業等を通じて民間企業に支払っています。
では、ここで異次元緩和が開始される2013年3月を起点にして、マネーストック、及びその内訳である個人、民間企業の保有するお金がどのように伸びてきたかをみてみます。

出典:日銀のデータを基に作成
これを見ると、民間企業の保有するお金の伸びが、個人のそれを大きく上回っています。
つまり、増えたマネーストックは企業の内部留保として、企業内で眠ってしまっているのです。
政府が個人に支払う社会保障費でさえ、それが生活費にあてられればそのお金は企業に移ります。
その企業が、その儲けを、株主や労働者に配分せず、内部留保してしまうがために、それが個人に戻ってこず、最終消費の担い手である個人の消費意欲が活性化されないのです。
STOP
まとめ
・日銀は確かに大量の資金を民間金融機関に注入するも、デフレの状況下、民間企業の借り入れが全く伸びず、マネーの総量を表すマネーストックは思うように増加していない。
・政府が借入残高を増やしたことで多少マネーストックは伸びるも、結局単に眠っているお金が増えているだけで、GDP=消費の総量はほとんど増えていない。
・眠っているお金がどこにあるかというと、民間企業の内部留保によってせき止められてしまっているのが現状。
上記を踏まえれば、インフレ率2%目標を達成するには、マネタリーベースを増加させるのではなく、政策により、民間企業に滞留している内部留保を、(新規投資に回さないのであれば)株主や労働者にもっともっと還元することを促していく他ない、ということが言えると思います。
(株主や労働者などの個人が潤えば、消費が刺激され、そうすると企業も新規投資をしやすい環境になるという、好循環が生まれる)
以上
りろんかぶお
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