
先日、経団連は、今年の春闘に向けた経営側の指針を正式に発表。
そこで、新卒一括採用や終身雇用、年功型賃金など、戦後、長く続いてきた日本型雇用システムが「時代に合わないケースが増えている」として見直すよう促しました。
「日本株への投資がうまくいかない理由」にも書かせていただきました通り、グローバルで見た日本企業の競争力低下の要因として、日本企業の社会主義的な雇用システムを挙げました。
仕事を頑張って、たくさん会社に貢献した人と、クビにならないことをいいことに手を抜いて会社に居座っている人で、給料がほとんど変わらないというのが日本型雇用システムです。
ここからの脱却を指針として経団連が掲げたことはとても良い兆候だと思います。
ではなぜ、今まで多くの企業が日本型雇用システムに執着してきたのか?労働関係法上である程度の規制がされているのか?という点を調べてみましたので以下記載いたします。
目次
1. 労働関係法の種類2. 賃金に関する規制3. 解雇に関する規制4. 賃金制度の種類と特徴5. まとめ
1. 労働関係法の種類
労働関係法に関しては主に以下の法制度があります。(厚生労働省HP抜粋)
① 労働基準法
昭和22年制定。労働条件に関する最低基準を定めています。
賃金の支払の原則・・・直接払、通貨払、全額払、毎月払、一定期日払
労働時間の原則・・・1週40時間、1日8時間
時間外・休日労働・・・労使協定の締結
割増賃金・・・時間外・深夜2割5分以上、休日3割5分以上
解雇予告・・・労働者を解雇しようとするときは30日以上前の予告又は30日分以上の平均賃金の支払
有期労働契約・・・原則3年、専門的労働者は5年
この他、年次有給休暇、就業規則等について規定しています。
② 最低賃金法
昭和34年労働基準法から派生。賃金の最低額を定める法律です。
地域別最低賃金・・・都道府県ごとに、産業や職種を問わず、すべての労働者及び使用者に適用されます。
特定(産業別)最低賃金・・・原則、都道府県内の特定の産業について決定されます。
③ 労働安全衛生法
昭和47年労働基準法から派生。
(1)危険防止基準の確立、(2)責任体制の明確化及び(3)自主的活動の促進等により、職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的としています。
④ 労働者災害補償保険法
昭和22年制定。
業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付等を行うことを目的としています。
⑤ 労働契約法
平成20年3月1日施行。
就業形態が多様化し、労働条件が個別に決定されるようになり、個別労働紛争が増加しています。そこで、紛争の未然防止や労働者の保護を図るため、労働契約についての基本的なルールをわかりやすく明らかにしたものです。
2. 賃金に関する規制
(出典厚生労働省:https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/chingin/q8.html)
労働基準法(労基法)24では、賃金の支払に方法についての5原則(①通貨払いの原則、②直接払いの原則、③全額払の原則、④毎月払の原則、⑤一定期日払の原則(ただし、臨時の賃金等は④、⑤の適用はない。))を定めているのみで、賃金の決定や計算の方法を如何にすべきかに関する規制はありません。
また、労基法15では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」とした上で、「賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」については、労働者に対し書面で交付しなければならないと規定しています(労基則5)が、賃金の決定や計算の方法を如何にすべきかに関する規制はありません。
さらに、労働条件を画一的に規制するための就業規則に関する規定である労基法89でも、就業規則に必ず記載しなければならない事項の1つとして、「賃金(臨時の賃金等を除く)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項」(労基法89②)を規定していますが、賃金の決定や計算の方法を如何にすべきかに関する規制はありません。
したがって、賃金の決定、計算の方法である「賃金制度」についての労基法の規制はないことなり、「賃金制度」のあり方は労使が対等の立場で話合い決定することになります。
3. 解雇に関する規制
労基法では、労働者を解雇しようとする場合には、原則として、少なくとも解雇日の30日前に解雇の予告をする必要があります。
解雇予告をしないで即日に解雇する場合は平均賃金30日分以上の手当(解雇予告手当)の支払が必要です。なお、解雇しようとする日までに30日以上の余裕がないときは、解雇の予告をした上で、30日に不足する日数分の解雇予告手当を支払うことが必要です(労基法20)。
次に、労働契約法では解雇に関して以下の通り定められております。
QTE
(解雇)
第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
第四章 期間の定めのある労働契約
(契約期間中の解雇等)
第十七条 使用者は、期間の定めのある労働契約(以下この章において「有期労働契約」という。)について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。
2 使用者は、有期労働契約について、その有期労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定めることにより、その有期労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない。
UNQTE
従って、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められる場合に限って、解雇ができるということになります。
よって例えば、「与えた業務は取り組むものの、著しくパフォーマンスが低い」などの理由で解雇することは難しいというのが現状です。
外資系企業では解雇が普通というイメージがありますが、日本法人である限り、労働契約法が適用されるので、規制のかかり方は他の純粋な日本企業と同様です。
外資系での解雇は、退職推奨(従業員が自発的に退職することを勧めること)が基本で、実質的には解雇であるものの、形式上は労働者が自発的に退職していることになっております。
外資系に勤める人はそもそも解雇されることありきで働いている人がほとんどですので、退職推奨に無条件で応じてしまう人が多いようですが、実は労働契約法上の権利を主張して会社に異議を唱える余地は十分にあるのです。
4. 賃金制度の種類と特徴
労働関係法を見てみると、解雇に関しては法律上ハードルが高い一方で、賃金制度に関しては柔軟性があることがわかりました。
では、今後日本型の年功型賃金を脱却しようとする際、他には具体的にどのような賃金制度があるのでしょうか?
大きく分けると以下4つの賃金制度が考えられます。
① 年齢給:労働者の「属人的要素(例えば、「年齢」、「勤続年数」等)」で基本給を決定
② 職能給:労働者の「能力」で基本給を決定
③ 職務給:労働者が従事している「仕事」で基本給を決定
④ 業績給:労働者が行った仕事の「成果・業績」で基本給を決定
それぞれの長所と短所をまとめたものが以下です。
各賃金制度の長所、短所等
(出典厚生労働省:https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/qa/roudousya/chingin/q8.html)
5. まとめ
日本の年功型の賃金に関しては、特段労働関係法上の規制がないことがわかりました。
では、なぜ日本企業が日本型雇用システムに拘ってきたかというと、今までの時代では長期的な人材育成や計画的な採用などのメリットが他のデメリットを上回ってきていたと解釈されてきたからです。
また日本人の保守的な特性上、年功序列と終身雇用という「超安定雇用」が、今までの時代は優秀な人材を引き付けてきたというのも事実かもしれません。(確かに就活の時に、日本人の親は安定した大企業に入ることを望みますし、公務員などの安定した職に就いている男性が未だに女性にモテますしね)
但し、企業活動がグローバル化している昨今、海外の優秀な人材を引き付けるために、雇用制度もグローバルスタンダードにする必要があり、日本型雇用システムからの脱却は必然の流れのように思えます。
まずは、現在の法律上も柔軟性のある賃金制度を改革していく必要があり、具体的には「年齢給」から「職能給」、「職務給」、「業績給」へのシフトが必須です。
このような賃金制度の改革が労働者の意欲を駆り立て、ひいては日本企業の競争力向上につながるものと思います。
以上
りろんかぶお
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