
前回記事では、経済が成長しないということ(経済が成長しないことが資本家の共通理解になること)は、すなわち「労働者の賃金が減り続けること=経済の衰退」を意味し、経済が成長も衰退もしない「現状維持」という状態は存在しない、というお話をしました。
なぜかというと、
経済が成長しない⇒①企業収益が伸びない⇒②資本家は自身の利益を拡大するため労働者の賃金を下げる或いは解雇する⇒③全体の消費が落ちる⇒①企業収益が悪化する⇒②労働者の賃金が下がる⇒。。。
という負のスパイラルに陥っていくからです。
ここで、バブル崩壊以降、30年弱の間経済が停滞しているといわれる日本について、本当に上述のような状況が起こっているのか具体的な数字をみていきましょう。
まずはほんとにGDPは停滞しているのか?


出典:内閣府の数字を基に著者がグラフ作成
名目GDPは2005年~2018年の間、年率平均0.3%の増加、実質GDPは年率平均0.6%の増加となっております。
微妙に増加しているとは言え、
「GDPはほぼ停滞している」ということができるでしょう。
次に「①企業収益が伸びない」について見ていきましょう。

出典:内閣府の数字を基に著者がグラフ作成
GDPが停滞しているので、当然ではありますが、以上のように企業の収益にあたる
「雇用者報酬+営業余剰」も微増≒停滞しております。
(2005年~2018年の年率平均は名目GDPと同じく0.3%)
次に「②資本家は自身の利益を拡大するため労働者の賃金を下げる或いは解雇する」見ていきましょう。
ここでは、総所得に占める雇用者報酬の比率=労働分配率を見ていきます。
理論が正しければ、労働分配率が下がっているはずです。

出典:内閣府の数字を基に著者がグラフ作成
ここで理論が覆されました。
労働分配率は減るどころか微増しているのです。
ここで理論と実態が異なる理由は日本の特殊な事情が考えられます。
それは、
企業側(労働者側)が株主よりも強いということです。
多くの大企業では労働組合がとても強いので、給料を下げるということはかなり難しいのが実情です。
また最近コーポレートガバナンスコードなどでやっと企業統治の考え方が浸透してきましたが、日本には短期志向の株主が多く成熟した長期株主が少ないというのも原因の一つです。
次に一応、「③全体の消費が落ちる」を見てみます。

出典:内閣府の数字を基に著者がグラフ作成
家計の最終消費ですが、全体の労働者の賃金が削られていないので、やはり消費も落ちず、一定の水準を保っています。
ここまで見ると最初に想定された理論は日本経済には当てはまらなかったのかなと見えます。
ただ、雇用者の雇用体系を見てみると少し見え方は違ってきます。

正規と非正規の割合を見ると、ここ数十年で圧倒的に
非正規の割合が増えました。
人手不足が叫ばれる現在ですが、正規社員の人数はほとんど増えておらず、非正規社員で穴埋めが行われている状況です。
次に実質賃金を見てみましょう。

出典:新世紀のビッグブラザーへ
実質賃金は1997年をピークに下がり続けております。国内総所得が停滞しているのに、雇用者数は増えているので、雇用者当りの賃金が下がるのは当然ですね。
これを見ると、資本家は正社員の給料を下げるのが困難な中、人手不足の中でもこれ以上正規社員は増やさず、比較的給料の増減や解雇が容易な非正規社員で穴を埋めていっていることがわかります。
<結論>さて結論としては、最初に想定した理論とは異なり、日本では少なくとも2018年までは経済停滞による雇用者報酬の減衰という現象は見られず、よって消費も減衰はせず(但し増えもしない)、ほぼ一定のGDPをここ30年弱保ってきていることがわかりました。
但し、これは労働組合が強い日本特有の現象かもしれない、更にもう少し見ると資本家は給料を簡単に下げられない正規雇用をこれ以上増やす気がなさそう、ということも考察できました。
一方で、逆に言えば、雇用者報酬をがちがちに守る環境があれば、経済成長を追い求めなくても、経済規模を現状維持していくことができるのではないか、ということも考えられます。
現在の経済成長とは、自然資源に付加価値を付与し、たくさんのモノ・サービスを生産していくという構造です。
一方で、当然ですが地球の自然資源は有限なので、経済成長は確実にいつかは終わるのです。
そのようなときに、持続可能な資本主義を保つためには、現在の日本のように資本家と労働者のパワーバランスをしっかり整えていく(必ずしも労働者が資本家の言いなりにならない)必要があるのかもしれません。
以上
りろんかぶお
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